写真左:小さく地味な色のマユミの花(東山動植物園にて筆者撮影)
写真右:マユミの実から種が見えている姿(masaaki / PIXTA)
秋分を過ぎ、次は寒露と、節気にやっと涼しい響きが感じられる時季がやってきました。夏の間は暑さでじっとしていた鉢花や花木たちも、秋の長雨の中すくすくと伸び、秋菊もそろそろ花芽を着け始めそうです。
「雨が多いのは結構だけど、今年の9月は晴天の日がほとんどなくって、菊の茎は細細ですよ~」
そうですね。私どもが栽培している古典菊もそんな感じです。やはりお日様の光なしに花はきれいには咲いてくれませんから、この先が心配ですね。
ところで、夏咲きの花々の開花はとっくに終わってしまいましたが、これからはその実が色づいてまいります。
「うん、マンリョウ、センリョウ、ナンテン、ムラサキシキブ・・・とかよね!」
はい、それらは実つきものの代表選手といっても良いでしょうね。ところで、皆さんはきれいな実を着けるマユミという花木をご存じですか?
「マユミ?って女子の名前って感じだけど。」
ええ。マユミさんというお名前の方には時々お目にかかることがありますが、日本古来の木にもマユミというものがあります。
マユミは、ニシキギ科ニシキギ属の落葉低木で、シベリア南部から中国など東北部、日本にかけて自生しています。初夏に小さく薄緑の目立たない花をつけますが、これがその後色とりどりの実になり、さらに秋が深まると鮮紅色の種子が現れます。
「花の時季は目立たないけど、花が終わってしばらくすると人目をひくようになるのね?」
その通りです。だからでしょうか。万葉集に以下のような歌が詠われています。
南淵之 細川山 立檀 弓束纒及 人二不所知
(南淵の 細川山に 立つ檀 弓束巻くまで 人に知られじ)
「お歌はどのような内容ですの?」
はい、これは弓矢の弓を作る職人が、南淵という所にある細川山の山中で、弓の素材として重宝するマユミの良木を見つけた時に詠ったものです。「良い木を見つけたが、この木の枝を少しずつ長く使いたいので、他人に捕られないようにこっそりこの木の場所に通おう。」という内容です。
「うん?それは表向きの内容でしょ。その心は?」
はは、もうお見通しですね!この歌に隠されている意味は「意中の相手を見つけたけれども、その娘と契りを結ぶまでは人に知られないようにしよう。」って感じのようです。まさにマユミの花が咲き実を結ぶ流れに合わせてあるわけですね。
この季節、自然地形を生かした公園や郊外の落葉樹の林に行けばマユミの実やそれが弾けて中から赤い種がのぞいている様子を見ることができると思います。お時間があれば、探してみてください。ただし、クマに遭いそうなところには行かないでくださいね!
執筆 愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦