とよあけコラム花マルシェばなのうももいろくろだつきどうけんこくせいひつえいそうおおうちわこくようつぐみ期き』)これは巣作りのため、初夏に日本に渡ってげんろくたにうほりぐちせいみんじぎうき えい そう執筆/愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦 節気は穀雨から立夏へ。昼間の日差しは日に日に強まり、草木の芽は生気猛々しく伸び広がっています。茶畑では摘み採りがはじまり、田んぼには水が張られ、これからひと月ほどは田植えのシーズンとなります。「田植えの土と稲の香、風流だね〜」「うん、トラクターや田植え機の音はちょっと騒がしいけどね」「まぁそれも活気があっていいんじゃない?」 おっと、田植えで盛り上がってますが、皆さん「田植え花」って聞いたことありますか?「田植え花?聞いたことないな〜」「それって、その花が咲いたら田植えの時期ってこと?」はい、そのとおりです。聞くところによると、稲の根が伸びるためには15℃程度以上の温度が必要で、これ以下の温度に長く当たると稲に障害が出やすく、ひいては米の収穫量が減ってしまうということです。つまり、これ以降はもう気温が15℃程度以下には下がらない時期に咲く花こそが「田植え花」というわけですね。「ところでその田植え花って何というお花ですの?」おっと、紹介が遅れてしまいましたね。田植え花とはタニウツギの別名です。 タニウツギは、スイカズラ科タニウツギ属の一種で、日本海側の標高のあまり高くない山地の斜面、渓谷に分布する日本の固有種です。この時季に濃桃色の花をたくさん咲かせます。その花の色合いからベニウツギとも呼ばれ、古くは黒田月洞軒の狂歌・自筆詠草『大団』の元禄16年に「わぎも子が口もとに似て花筒にさして見事な紅うつぎかな」と登場しているようです。ただ、この一節を除き、その後は江戸期の文献にタニウツギやベニウツギ、あるいは田植え花の名が無いことから、タニウツギが市中で愛好されることは稀であり、山谷渓谷にて眺められる自然の風物詩であっただろうことがう窺かがえます。 そして、元禄から約220年後、昭和初期になると、時折俳句に詠まれるようになります。「黒曜の鶫ひそめり谷卯つ木」(堀口星眠『営巣来たクロツグミが、咲き誇るタニウツギの木陰に潜んでいる様子を詠ったものですね。「でも、どうしてタニウツギは江戸時代の文献にあまり出てこなかったのかしら?キレイな花なのに」そうですね。タニウツギの生息地は文化人たちの往来するところではなく、見つけてもその切花は水揚げが悪いため、都市部に運ばれることがないまま、交通の発達する昭和まで周知されなかったのではないかと推測します。ることがあったなら、タニウツギの花を探してみてくださいね!とよあけの自然ヒメタイコウチ〜湧水湿地に住む半水生昆虫〜初夏に咲き誇るタニウツギ(RewSite/PIXTA)ヒメタイコウチはなかなか見つからない 五さ月 つき晴ばれの中、日本海側の野山にお出かけす前脚は小動物を捕まえるのに適した「捕獲脚」34広報とよあけ| 2025.5 |写真/筆者撮影 市の天然記念物に指定されている大狭間湿地にはシラタマホシクサを始め湧水湿地特有の稀少な植物が多数生育していますが、この湿地に特有な昆虫と言えばハッチョウトンボとともにこのヒメタイコウチをあげることができます。 体長は約2㎝で土と同じ暗褐色をしており、落葉の間や草の根元にいることから、草の上にとまる赤いハッチョウトンボとは違ってなかなかお目にかかることができません。私がヒメタイコウチと出合ったのは、湿地内でのヨシ除去作業中に、驚いて出てきたのを足元で見つけたというのがほとんどです。稀に、草があまり生えていない砂利の上に出てくることがあり、湿地一般公開の際にそんなヒメタイコウチに出合えた方は幸運と言えましょう。 国外では中国や朝鮮半島などにも分布していますが国内の分布は極めて局地的で、東海四県、近畿地方の一部と四国(香川県)に限られています。愛知県のレッドデータブックでは準絶滅危惧種とされ、西尾市では生息地が県指定の天然記念物になっています。 羽は退化し飛べないため移動能力は乏しく、尾端の呼吸管は短いため、池での水中生活には適さず常に湧水のある浅い湿地に頼って生きるヒメタイコウチ。生物の保護には生息環境の保全が何よりも大切であることを教えてくれます。豊明市史(自然)執筆員 浅野 守彦
元のページ ../index.html#34