コムラサキ〜紫色は構造色〜と花よあマけルシェコラム さぎそうしょじ き さなかさぎかささぎ:Cerra erua(≒うかがしょくべん常とき盤わの君、御入殿なりし起おこ発りこそ、ひ偏とえに雪の白にっぽなごりのときわかんせいさてえにしかぶこのたび 〝かささぎの〜わたせる橋に〜おく霜の〜しろきを見れば〜夜ぞ更けにける〜〟「おやおや、この暑い最中に突然冬の歌をお詠みになって、気でも違われましたの?!」どうも失礼しました。今回は鷺草の花をご紹介しようと思っていたら、この歌が思い浮かんでしまいまして。「サギ草だからカササギね?なるほど。でも、鷺と鵲は違う種類の鳥でしょ?」お、よくご存じですね。そうです。サギはペリカン目、カササギはスズメ目ですから、分類学的にはヒトとメガネザルくらい離れてます。「で、何でこの歌が出てくるわけ?」それは、この歌を詠んだ大伴家持の時代、いわゆる日本の古代には、カササギは日本国内に生息していなかったとの見解から、ここに登場するカササギはサギを指していると考えられているからです。「ほ〜、そうですか!でも鳥の話はこれくらいにして、その先をお願いしますよ。」はは、了解しました。 サギソウはラン科サギソウ属の一種で日本の原産種です。分布域は日本の他、韓国、中国、台湾の温帯域で、標高の低い湿地帯に生息しています。歴史への登場は、慶長8年(1603)刊の『日葡辞書』に「Saguiso「とある草」)」と記載があることから、桃山時代以前には観賞されていたことが窺われます。Certa erva= サギソウは7月末から8月末頃に、高さ30㎝前後の茎の先に花径3㎝前後の花を着けます。花の基本構造は他のラン同様ですが、このうち唇弁は純白で肥大化しており、その左右が細かく避けている姿は、まるでシラサギが羽を広げているかのようです。近づいてじっくり眺めると、愛らしくも品の良い花です。 その美しさ故か、『名残常盤記』(寛政期以前)|第四段鷺さぎ草そう並なら内びに海うつ掃みか部もん之のこ事と|にはサギソウにまつわる伝説が記されています。これは戦国時代、サギソウの自生地であった奥沢(現世田谷区郊外)の地を舞台にした物語で「扨も此度、鷺の、わたせる橋の縁とて…」と始まります。「おっ、冒頭の歌と被りましたね〜!」ええ。日本の花の歴史を見ていくと、このように時代を超えて、文学と文学の接点に出会うことが少なくありませんよ。「ところで、鷺草伝説ってどんな内容かしら?」はい、それについては、ここではちょっと説明しきれなくなってしまったので、またの機会にお話しさせていただきますね。執筆/愛知豊明花き流通協同組合 永田 理事長 晶彦とよあけの自然34広報とよあけ| 2024.8 | チョウの翅には鱗粉という小さな粉がついています。この鱗粉は、色素で粉そのものに色がついている場合と、構造色と呼ばれるもので発色している場合があります。構造色とは翅にある微細構造の凹凸などで、ある一定の光の色となる波長を反射したり、屈折したり、干渉、分散などの物理的現象によって出てくる色のことをいいます。CDやDVDなどのきらめく色は、この構造色によるものです。 コムラサキには過去にカクシムラサキ(隠し紫)の別名がありました。見る角度で紫色が見られたり、見られなかったりする現象を表した、非常によい着目点の名前と思います。現在の名前はよく似た色模様でより大きなオオムラサキというチョウと比較して小さなことからきています。 コムラサキには二つの型があり、よく見られるのは褐色型はねりんぷんで、稀に黒色型も見られます。どちらの型も構造色が楽しめ、褐色型のだいだい色の点模様が、黒色型では白色になっているのが特徴です。勅使池の周囲に生えるヤナギ類でよく見られるコムラサキ豊明市史(自然)執筆員 吉鶴 靖則写真/筆者撮影白鷺が飛んでいるような姿のサギソウの花(basilico/PIXTA)褐色型 見る角度で翅の色が変化して見えていますクロコムラサキの別名も持つ黒色型
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