広報とよあけ 令和6年3月1日号
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写真は筆者撮影「二村山の春は?」と問えば誰もが「桜」と答えるでしょう。そんな二村山の華やかな桜の花の足元で、つつましくも精一杯春を彩る里山のスミレたちをご紹介します。3月下旬、ヤマザクラとともにいち早く開花するのはマキノスミレです。植物学者牧野富太郎にちなんで名づけられ、直立する細い葉が特徴です。4月に入りソメイヨシノが満開になる頃にはニオイタチツボスミレやフモトスミレが花を咲かせます。ニオイタチツボスミレは紫色の花の中心がはっきりと白く、その名の通り花には微かな芳香があります。フモトスミレは他の二種より小型で花が白く、葉の裏が紫色を帯びています。これらのスミレは道端や畑には生育せず、見られるのはほぼ明るい雑木林に限られています。市内では暗い林や竹やぶが増えており、里山保全活動が行われている二村山以外ではほとんど姿を消してしまったかもしれません。この春、二村山で足元を注意して探せば、その可憐な姿に出会えるかもしれませんよ。豊明市史(自然)執筆員                浅野守彦里山のスミレ〜つつましく春を彩る  雑木林の妖精たち〜えんたんいろじかずしゅヴァロータスペシオーサクンシランʻミニアータʼ(左skleznev/PIXTA)とクンシランʻノビリスʼ(右Jjfarquitectos/PIXTA)27フモトスミレニオイタチツボスミレマキノスミレ 立春、雨水、啓蟄と、徐々に春が深まってまいりました。もう霜の心配もないので、冬越しのため、部屋の片隅に置かれ窮屈な思いをしているお花たちも、そろそろ家の外に並べてあげられそうですね。亜熱帯・熱帯から日本に渡って来た植物では、このように日本の冬を戸外で越しづらいものが多いのですが、その一つで、この時季に花を咲かせるのがクンシランです。 クンシランは、南アフリカ原産のヒガンバナ科クンシラン属の総称です。「そうなの?君子蘭と漢字で書くから、てっきり中国のものと思ってたよ!」ええ、そう思っちゃいますよね〜。クンシラン属の英名はクリビア(Clivia)で、『牧野植物全集』(誠文堂/昭和10)によると、クリビアが日本へ渡来したのは明治初期で、それがnobilis(ノビリス)という種であり、nobilisの意味を「君子」と解釈することもできたことから、この漢字名称が帝国大学植物学教室の助教授、大久保三郎によって、クリビアʻノビリスʼの和名として付けられたようです。ただし、今日私たちが目にするクンシランの多くは、これとは別の種であるクリビアʻミニアータʼ(Clivia miniata)あるいはその交配種です。「君子蘭の名前のもとになった種が別物になっちゃったってこと?」はい、花が垂れ下がるノビリスよりも、上を向いて咲くミニアータの方が観賞性で大きく優っていたので、急速にミニアータが普及し、クンシランの代表になってしまいました。 クリビア協会(The Clivia Society)によれば、ミニアータは1850年頃、当時の南アフリカ連邦ナタール州で発見され、これをヨークの園芸家が輸入し、1854年ロンドンの園芸協会会合で展示されました。この植物を見た当世イギリスの偉大な植物学者でクリビアʻノビリスʼの命名者でもあるジョン・リンドレイは、これがクリビアʻノビリスʼに似てはいるものの、花はVallotaʻspeciosaʼという植物により近いことから、ヴァロータ属に分類し、その色合いからミニアータ(鉛丹色=鮮やかなオレンジ色)と名付けました。しかし、1964年ドイツの植物分類学者エドゥアルト・レーゲルによって、この植物がクリビア属の一種であることが突きとめられ、脚光を浴びてから10年後、やっと本名のクリビアʻミニアータʼを授かったということです。「ほ〜、イギリスにも偉い人のやらかした逸話はあるんだね〜」はは、偉大がゆえにこういった話も残っちゃうんでしょうね。ってところで字数がいっぱい。それではまたお会いしましょうー!            執筆 愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦  

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