かクズ 筆者撮影 山野、市街地、空き地などでよく見かけるつる植物で、マメ科クズ属に分類される多年生草本です。葉は3枚の丸形の小葉からなる大きな複葉が太いつるから交互に伸び、花は赤紫色の蝶形の小花が房状に密集していて、8〜9月頃に下から順次開花していきます。クズは、古事記や日本書紀にも記載があるほど古くから日本人には身近な野草で、「秋の七草」の一つでもあります。外皮を除いた根を細かくし乾燥させた葛根は解熱・発汗作用があるため葛根湯や葛湯などの漢方薬として、また根に含まれる良質なデンプンを葛餅や葛切りなどの和菓子の原料として利用してきました。しかし、クズはつる性で周りの植物に覆いかぶさり生育範囲を拡げるため、クズに覆われた植物を枯死させてしまい、その地域の生物多様性の低下の原因にもなっています。ちなみに、海外では繁殖力が極めて強く駆除がなかなか難しいことからグリーンモンスターとよばれ、侵略的外来種(既存の生態系や人間の活動に甚大な影響を及ぼす外来生物)にも指定されている有害植物です。文化財保護委員かっこん 鬼頭 邦英くさ きくん しわすがたにおやまのうえの おく らタオホンジ−ンシェンノンベンツァーオジンジューし くん しはぎお ばなくずばなはかま がく べんペイランランツァーオきのつらゆきやどかぐわグオモールオふじ ばかま あさ がおくだり 「芽之花 乎花■花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝皃之花」 (萩の花 尾花■花なでしこの花をみなへし また藤袴朝顔の花)は万葉集に登場する山上憶良の歌。この7種の花の名前を連ねて「秋の七草」と呼ばれていますよね?「おいおい、この件先月号そのままじゃないかね?君は広報を何だと思っておるのかね!」わぁー、ごめんなさい。今月の主役、フジバカマもここに登場しているので、ついつい同じになってしまいました。 フジバカマは中国東部原産のキク科ヒヨドリバナ属の一種です。梅雨の終り頃から咲き始め、花の遅いものは晩秋まで楽しむことができます。この花の呼び名の由来は花の袴、いわゆる額弁が藤色であることから付けられたのでしょうね。フジバカマを乾燥させたものは香りがシュンランに似ていて、中国では、女性や子供がこれを好んで身に着けたといいます。このことから、中国ではこの花を、身に着ける蘭という意味の「佩蘭」と呼ぶようになったといわれています。 万葉集に詠われていることから、8世紀中期以前には佩蘭が日本へ渡り藤袴と呼ばれていたことがわかりますが、その歴史はさらに古く、すでに西暦500年に陶弘景が著した『神農本草経注』に「蘭草」の名で登場しています。中国では古来、蘭、竹、菊、梅を草木の中の君子として称え「四君子」と呼び、このうち「蘭」は、現代ではシュンランを指します。しかし、郭沫若など中国の歴史研究者の見解では唐代以前の詩文に登場する蘭はすべて蘭草、つまりフジバカマであるとのことです。「へ〜、フジバカマって、その辺で見かける野草だと思ってたけど、高尚な花だったんですね〜?」そう、在野ながら歴史と気品を併せ持った存在なんです。 万葉集には一首しか登場しないものの、平安時代になり、古今集には藤原敏行をはじめ、多くの歌人がこの花を詠んでいます。その巻第四、紀貫之の一首「屋とりせし 人の形見可 藤は可満 忘られ可多起 加尓々本いつ々」(宿りせし ひとのかたみか ふじばかま 忘られ難き 香に匂いつつ)は、一夜の宿を貸した美しい女性の香しさを、フジバカマの香りに例えて詠ったもの。この歌からも、当時のフジバカマのイメージが、素敵な香りを意味していたことがわかりますね。 まだ昼間の暑さの中、野山に出かけるのも少しおっくうに感じる時節ですが、どこかでフジバカマを見かけたなら、どうぞその歴史背景を思い浮かべながらご観賞いただければ幸いです。 執筆 愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦住宅地に咲いたフジバカマの園芸種画像提供:愛知豊明花き流通協同組合クズの花39
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