広報とよあけ 令和5年7月1日号
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セスジイトトンボと  ムスジイトトンボ〜微妙なバランスで  生息するイトトンボ〜写真は筆者撮影 沓掛町の地蔵池はスイレンやヒシなどの水草が豊富で、セスジイトトンボの発生地となっています。沓掛町の勅使池はウキシバやヨシなどの水草やヤナギ類の根が水草代わりとなり、ムスジイトトンボが生息しているようです。どちらも水草が豊富な池でよく見られましたが、現在では珍しくなり、名古屋市では準絶滅危惧にランクされる絶滅危惧種です。隣接する豊明市の生息地は重要といえましょう。 写真はどちらもオスで、複眼の後ろの斑紋の大きさや形の違い、複眼の色などで区別できますが、非常によく似ています。生息環境もよく似ていますが、ムスジイトトンボの方が環境に選り好みがあるのか、微妙な環境のバランスで進出、繁栄、衰退、ときに絶滅と変動するようです。環境の変化に敏感な割には、セスジイトトンボと競合すると相手を打ち負かし、ムスジイトトンボばかりの池になることもあります。両種の間でも微妙な勢力争いのバランスがあるようで、興味深いです。豊明市史(自然)執筆員         吉鶴 靖則き  ぐしの ぶ もじずりしょこくさんぶつちょうくさ き ぞめけ ふき ぐさまつ え しげよりおうみ こくする が はんきょうほうそめ も ようみなもとのとおるめいれきネ ヂ リ バ ナみち のくしのぶよじ35 みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに 乱れそめにし われならなくには、皆さんご存じの百人一首に登場する恋の歌ですね。「ええ、聞き覚えがありますわ!あなたを恋する余り、心が休まらないって歌でしょ?ところでこの〈しのぶもぢずり〉って何のことかしら?」はい、これはその昔、陸奥の信夫の里(今の福島市)の名産品であった信夫捩■という草木染のことで、忍草で■りだした染模様が捩れている様子と、恋に乱れる忍ぶ気持ちを掛けたものらしいですね。ちなみにこの歌を詠んだのは源融で、光源氏のモデルと言われている人です。さらに、この歌は『伊勢物語』第一段にも引用されており、この時代かなりヒットしたようですね。「ところでお花はいつ登場するのかな?」お、そうでした。実はこのもぢずりという音を受け継いだ花があるんですよ。 「もぢずり」という植物名は『毛吹草』(松江重頼、寛永元年刊)の明暦元年版巻二の六月に初めて登場します。そこから80年後、もぢずりは『諸国産物帳_近江国駿河版(享保21年)』の草類に「祢ぢ里ばな」と改称され、現代の学名は「ネジバナ」です。 ネジバナはユーラシア大陸からオーストラリアまで広く分布するラン科ネジバナ属の総称です。日本にもいくつか原産種があり、日本全国津々浦々で見つけることができます。「え〜!これって蘭なの?よく見かける雑草だよね?蘭の仲間でも雑草扱いされるのってあるんだね!?」はい、日本に自生しているランの種類はけっこうあって、私の知り合いにも山野渓谷で野生ランを見つけ、これを現地で自然のまま観賞することを趣味にしている方が多くいらっしゃいますが、ネジバナについては、私を含め、これを保護する人はほとんどいません。 ある意味雑草扱いのネジバナだけど、まっすぐ伸びた花茎に、これを一本の毛糸で巻いていくように小さな花が連続して着く姿はとても個性的です。よく見ると小さな一輪一輪はちゃんとランの構成単位を備えています。また、ネジバナは暑さにも寒さにも強く、戸外で地植えでも栽培でき、花の後に種を採って播くこともできます。気軽に栽培できるランなので、ちょっと試してみるのもありだと思いますよ〜!                執筆 愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦そのあたりの草地に生えるネジバナ(photozd/PIXTA)勅使池のムスジイトトンボ地蔵池のセスジイトトンボ

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