広報とよあけ 令和4年6月1日号
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 節気は立夏、小満と夏も深まってまいりました。これから公園や学校の生垣では白い花が咲き始め、しばらくは、匂い立つ芳香が放たれます。「それ、クチナシでしょ?わたしこの花の香りだーい好き!」そうです。クチナシはとても香りのよい花木です。春がジンチョウゲ、秋がキンモクセイなら、クチナシは日本の夏に香る花の代表といえるでしょう。その香りは香料にも使われる熱帯種のジャスミンの類に似ており、花瓶に一輪挿しておけば、お部屋が香かぐわしくなります。学名はGardenia jasminoides(ジャスミンに似る)、つまり国際名称も香りに因んでつけられているんですね。ちなみに漢字表記は中国名称を踏襲し、梔くちなし子です。 クチナシは東アジア中南部に自生するアカネ科クチナシ属の一種しゅで、日本にも自生しています。その歴史は古く、天てん平ぴょう年間に編纂された『肥ひ前ぜんの国くに風ふ土ど記き』松浦郡値ちか嘉の郷さとに「則有檳榔木蘭枝子・・・」(嶋には即ち、檳あじまき榔・木もくれん蘭・枝くちなし子(梔子の薬用名称)・・・あり。)と登場しています。 クチナシはその香りもさることながら、その特質は実が染料として、布地の染色や食用色素として使われるところです。クチナシの実は熟しながら赤みを増し、冬を迎える頃には朱色に染まります。これを煮出して染色液を作り、布を染めると山吹色の生地ができるようです。ただし、実が生なるのは一重の花の咲く種しゅで、八重花の咲く種しゅは実が生らないので、ご注意ください。「これって、ヤマブキと同じですね?」そうで~す。八重のヤマブキ同様に八重のクチナシも雄おしべ蕊、雌めしべ蕊が花弁化してしまい、種たねができないんです。 それでは最後にあの「詩聖」杜甫が成都長江の畔ほとりでクチナシを詠った詩『梔ジューズ子』をご紹介して今回はお別れです。今年はクチナシの花が終わった後にできる実も探してみてくださいね!「栀子比众木,人间诚未多。于身色有用,与道气伤和。红取风霜实,青看雨露柯。无情移得汝,贵在映江波。」「梔子はありふれた木でありながら、人の暮らしの中においてはまだ多くは見られない。その実は物を染める素となるとともに、薬用となり傷を和ます。霜風の吹いた実は紅に染まり、雨露が降った葉は青みを増す。長江の畔でその一株を堀りあげながら見渡せば、水面に映る梔子の姿は美しく貴い。」(意訳筆者)執筆 愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦 川が氾はんらん濫して洪水を起こすと困りますが、本来、自然の川はときに流路を変えるほどの氾濫をするものです。現在ではダムの建設や堤防の築堤により、人の都合で川の勢いが押さえ込まれています。 生きものには氾濫するような川の環境に適応した種が幾つもおり、コアジサシもその1つです。出水はときに川原に生えている草や木を押し流し、砂利をむき出しにします。そのむき出しの川原で繁殖をするのがコアジサシです。川の氾濫が少なくなり、繁殖地ができづらくなった現在では絶滅危きぐ惧種に指定されました。 2019年、思いがけず豊明市でコアジサシとの出会いがありました。栄町で大規模な開発があり、砂利がむき出しの駐車場が一部で造成されました。その環境がちょうどコアジサシが好む川原の環境とよく似ており、繁殖したのでした。あくまでも一時的な繁殖場所で、人が開発したことで無くなる自然もありますので、素直に喜べない繁殖記録です。豊明市史(自然)執筆員吉鶴 靖則コアジサシ~川の氾はんらん濫がなくなり、                 繁殖地を失った絶滅危きぐ惧種~雪化粧したクチナシの実(画像提供:DATSUN / PIXTA)地面で卵を温めるコアジサシ上空を飛翔するコアジサシ写真は筆者撮影29

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