広報とよあけ 令和4年4月1日号
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 日々暖かくなるこの時期、陽気につられて外に出ると、時にその日差しの強さに目がくらみ、あわてて木陰に目をやると、そこに背の低い白い花が群生していることがあります。「う~ん。いつもながら話の入りが強引だね。」「で、その白い花って?」はは、この時期木陰の地面を覆うように咲く花の一つにシャガがあります。シャガはアヤメ科アヤメ属で、中国の西部から南部にかけて広範囲に生息しているものが中世以前に日本に渡ってきたものと考えられています。「ふんふん、アヤメの仲間ですな。また例によって間違っちゃった話?」はい、そうなんです。今回も、アヤメの類たぐいのややこしい話です。 古くから日本にあるアヤメ属には、シャガのほかにもヒオウギ、イチハツなどがあり、それぞれ漢字で書くと射しゃが干、檜ひおうぎ扇、鳶いちはつ尾です。このうちヒオウギは日本にも原産するけど、すべて中国原産の種なので、当然それぞれに中国の漢字名称があり、それは…“射しゃが干=胡フーディエフアー蝶花”  “檜ひおうぎ扇=射イェガン干”  “鳶いちはつ尾=鳶ユェンウェイ尾”…です。「お、“射シャガ干”の文字が入違ってるね?!」はい、お気づきの通りです。「ふふ、また、日本に渡ってきて名前が変わっちゃったんですね?」はい、でも、これについてはどうも日本のご先祖の間違いではなさそうなんです。 中国の『神シェンノンベンツァーオジン農本草経(5世紀以前)』には、すでにヒオウギとイチハツの記載があったとされ、その後も数々の本草書においてヒオウギとイチハツについての意見が載せられました。その一つ『本ベンツァーオトゥージン草図経(1061)』草部下品之上巻第八において博物学者の蘇スーソン頌は「…射幹之形,其茎梗疏長,正如長竿状,得名由此耳。…若漢官仆射主,射而亦音夜,非有別義也。(“射イェガン干=ヒオウギ”は葉が左右に張り出し、中央に茎が直立する姿が弓に矢がかかった様子に似ており、また、射いて手たちが行う弓の儀式を取り仕切る役職を“射イェガン干”と呼んだことからこの名になった。)」とその名の由来をわかりやすく説明しているものの、続く説明に「鳶尾花亦不白,其白者自是射幹之類・・・(イチハツの花は白くなく、白いのはヒオウギの類…)」などと間違った表現がされています。その他の本草書にも「ヒオウギとイチハツは同一である」などの誤りが多々あり、分類が混とんとしていた様子が窺うかがえます。それがのちに日本へ到来したときに名前が入違ったとしても無理のない話ですね? さて、これからますます日差しの強まる中、日陰を好んで生息する花にも目を向けてみましょうね!執筆 愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦 ナズナは、果実の形が三味線のバチに似ていることから、「ぺんぺん草」とも呼ばれ、日本各地のどんな土壌にも生える越えつねんそう年草です。 ナズナの名前の由来は、夏になると枯れてなくなることから「夏無(なつな)」が変化してナズナになったという説です。 秋に芽生え、冬は写真のように地面に葉を広げて、寒さから植物体を守るロゼット(根葉が放射線状になった状態)で厳しい冬を越します。早春から開花をはじめますので、よく目立ちます。先端部では次々とつぼみを形成して開花します。下の方は果実が形成されます。このような開花・結実の形式は、確実にたくさんの種子を形成しようとする戦略です。田畑のような不安定な立地に生育するには適した方法です。 ナズナは春の七草のうちの一つでもあります。七草には、健康効果が期待されるものが選定されており、ナズナは利尿作用や解毒作用、止血作用があり、胃腸の調子を整えます。また、ナズナという名前から、撫なでることで穢けがれを取り除くことができる、縁えんぎ起が良い植物とも言われます。豊明市史(自然)執筆員小笠原 昇一シャガの花(Rhetorica / PIXTA)春の七草のひとつナズナ寒い早春から。夏まで勝負する「ナズナ」筆者撮影39

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