ムラサキシジミは翅はねの表側が紫色に美しく輝き、裏側が地味な茶色の保護色となっているチョウです。このように、表はきれいにも関わらず、裏が地味なチョウは幾つも見られますが、なぜでしょうか? チョウの捕食者である鳥類は頭がよく、チョウを見つけたときの色を覚えて探すことができます。もし、鳥が最初にチョウを見つけたとき、地味な保護色でしたら、逃げられたら簡単には見つけられないと思い、あきらめるかもしれません。ところが、目立つきれいな色で見つけたのでしたら、見つけやすいと思って、探すかもしれません。ところがチョウは逃げた後に翅の裏側しか見せなければ、鳥の思い描いた色と違いますので、探し出すことができず、チョウは逃げ延びられます。この失敗を何度も繰り返すと、その鳥はチョウを追いかけなくなり、チョウが生きていくのに有利になります。翅の表側がきれいな理由の一つは、このように鳥をあざむくためと考えられています。豊明市史(自然)執筆員吉鶴 靖則翅はねの表側翅はねの裏側写真は筆者撮影絞の入ったボケの花(Ian E David/Shutter Stock)ムラサキシジミ〜翅はねの表がきれいで、裏が地味なチョウがいる理由〜啓けい蟄ちつも近づくと、目の前の景色も春の粧よそおいを増してまいります。「そうだね~。日脚も伸びてきたし、色んな花が咲きだして、白黒の画面にだんだん色が加わっていく感じ!」おお、まさに今はその言葉通りの節季ですね!その中で、種類によってはまだ寒いうちから咲き始め、多くは今が開花の最盛期である花の一つがボケの花です。 ボケは主に中国の西部に広く分布する落葉低木です。漢字の表記は「木瓜」ですが、現代中国ではこの花木を貼ティエゲンハーイタン梗海棠と表記します。本ほんぞうわみょう草和名(延えん喜ぎ十八年、918頃刊)に「木瓜實榠楂大而黄査子渋木瓜一名楙・・・和名毛介(ボケの実はサンザシより大きく色は黄色で味は渋い、ボウとも言い・・・和名はモッケ)」と登場することから、平安時代初期には日本に伝わっていたと考えられます。また、日本にはもともとボケと同属のクサボケという種しゅが自生しており、大正期と昭和50年以降これらをもとにいろいろな品種が作出されています。 ボケの花の特徴は色の幅が広いところ。サクラなど同じサクラ亜族の花の多くが白~桃~紅色の間に納まっているのに対し、ボケの場合は肌色、黄色、橙色などの品種があり、絞り模様の品種も少なくありません。血筋は全く違いますが、花色に関してはツバキのイメージに近いでしょうか。そのくっきり鮮やかなパステル調の色合いは、まだ寒さが残る庭先に温かみを与えてくれます。「花色がボケてるわけではないのね?」はい、元々中国の漢字「木ムーグア瓜」を日本語の音に付け替えた時に「ボクケ」となり、それが転じて「ボケ」となっただけですから、少しもボケたところはありません。それどころか、ボケには鋭い棘とげがあります。棘といえば、バラが思い浮かびますが、バラの棘は付け根が広いため、触ると痛いものの、そんなに深くまで刺さりません。しかし、ボケの棘は針のように細長く尖っています。したがって棘に体が当たると深くまで刺さり込んでくる可能性があるので、十分に注意しながら、お手入れ、ご観賞くださいね。 そうそう、ボケの漢字は「木もっこう瓜」とも読み、家紋にも使われております。織田信長の家紋の一つは「織お田だ木もっ瓜こう」と呼ばれ、諸説ありますが、ボケの五弁の花びらの中央にボケの実の断面が図案化されたものです。このコラムにおいて、初めて「のぶながくん」とお花が繋がった一幕でございます。では、お後がよろしいようで。 執筆 愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦 〈背景イラスト:「織田木瓜 五瓜に唐花」イラストapres midi/PIXTA〉二村山緑地で、冬を除いてほぼ一年中見られるムラサキシジミ27
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