広報とよあけ 令和3年6月1日号
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 夏至を過ぎ、日々夏の深まりを感じるこの頃、これからはいろいろな果物や夏野菜の収穫が始まり、各ご家庭の食卓でも夏の演出がされることでしょう。果物ではビワも今からが収穫時期ですが、ビワと聞くと、ついつい琵琶法師の平家物語が頭に浮かんでしまうのは私だけでしょうか?「平家物語の冒頭は学校で暗唱させられたから、私もよく思い出すわ」「うんうん、祇ぎ園おん精しょう舎じゃの鐘の聲こえ…ってやつね」おお、良かった。同士の皆様がおられるようで安心しました。ところで、この冒頭に「沙さ羅ら双そう樹じゅの花の色盛じょう者しゃ必ひっ衰すいの理ことわりを顕あらわす…」と登場するサラソウジュってご存知ですか?「暗唱してたけど、どんな花かは知らないな~。」たぶん多くの方はご存じないと思うので、ちょっと説明申し上げると、沙羅双樹は本来「二本のサラの樹」という意味で、和名をサラソウジュと言い、インドから東南アジアに生息するフタバガキ科サラノキ属の常緑高木です。熱帯種なので、日本の鹿児島以北では屋外で越冬できません。「越冬できないって?じゃ、どうして平家物語に載ってるわけ?」それは、平家物語の沙羅双樹がサラソウジュではないからです。「は?」実は、平家物語の沙羅双樹は現代のナツツバキを指しています。 それでは文面の都合で、ここからはナツツバキの紹介をさせていただきます。ナツツバキはツバキ科ナツツバキ属の落葉高木で、日本の自生種です。樹皮がツルツルしており、本来の百さるすべり日紅とは別にサルスベリと呼ばれることもあります。花はちょっとツバキ属に似ていますが、ツバキとは別物です。この木がどうしてサラソウジュに置き換えられてしまったのかは不明ですが、平安期以前の熱心な仏教信者が、仏教の聖樹であるサラの木が日本にないことを愁い、ナツツバキを代理にたてたと考えられています。 ナツツバキの花は比較的水平方向を向いて咲くので、花の姿がはっきりと目に映ります。成木に花が群がり咲く姿は、勇壮な兵士に例えられても違和感がありません。そして、この花は朝に開き、夕方には萎れてしまいます。この花の寿命をして「盛者必衰の理」と評するところはその文学センスもさることながら、平家物語の筆者は花を味わう術に長けていらしたようですね。執筆 愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦 昨年9月号では二村山の保全活動によって生息地が守られているヒメアカネというトンボを紹介しました。同じ保全活動で新たに生息適地が創出され、定着したと思われるのがサラサヤンマです。 豊明市では市史の自然編でかなり精度のよい調査が行われています。そのときに発見できなかったサラサヤンマの発見を専門家に連絡したところ、まさか豊明市で出るとは思わなかったと言われたぐらいでした。ただ、調査している私としては、環境が整ったように見えたので、注意して探索していたトンボでした。 トンボの移動距離は、ときに想像以上に長くなるようで、昨年7月号で紹介したベニイトトンボのような弱々しそうに見えるトンボでも、数キロメートルの範囲で別の生息地が見当たらないものもいます。サラサヤンマは大型のヤンマの仲間ですから、飛翔距離は相当あるものと推測できます。どこから来て、二村山が気に入って棲すみ着くようになったのか、興味深いものです。豊明市史(自然)執筆員吉鶴 靖則サラサヤンマ~2019年発見の豊明市のニューフェイス~輸出され海外で咲いたナツツバキの花(撮影:小J)2019年に定着したと思われるサラサヤンマ筆者撮影35

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