とよあけの自然 

イボミズゴケ ~逃げ遅れた湿生植物~

イボミズゴケの画像

 市内の丘陵の谷地や斜面下部には、かつては湧(わ)き水に涵養(かんよう)された湿原が点在していましたが、土地開発が進むにつれて失われ、現在では僅(わず)かになりました。
 この湿原は、ナガバノイシモチソウをはじめ種々の食虫植物や水湿生植物が生育する貴重な環境です。湿原につきもののミズゴケは2種類みられますが、本市ではなぜか普通によくみられるオオミズゴケは少なく、ほとんどがイボミズゴケです。両者の外観はよく似ていますが、枝葉の断面を顕微鏡で観察すると透明細胞の側壁にイボがあるのではっきり区別ができます。
 ところで、このイボミズゴケは日本では通常亜高山帯の湿原に多い寒地系の種類です。それがどうして本市のような平地に生育しているのでしょうか。
 日本の気候は地質時代から寒暖をくり返してきた事が知られています。寒い時代には北の植物が南の方に下がり、暖かくなると北の方へ逃げ帰るのです。この時に冷たい湧き水がいつも流れる湿原があると、そこに踏みとどまって生き続け、とうとう逃げ遅れてしまったのです。湿原にはしばしばこの様な植物が見られます。ヌマガヤやミカヅキグサなどもその類(たぐい)です。

 

市史編集委員 成田 務