豊明市 には、多くのため池があり、そこには色々な水生植物が見られます。葉を水面に浮かべて生育するものを浮葉(ふよう)植物といいます。この仲間で市内の池に比較的よく見られるものにヒシがあります。菱(ひし)形はこの葉の形からでた語です。また、ヒシは古くから知られた食用植物で万葉集にもヒシの実を採取する情景を詠んだ歌が見られます。
君がため
浮沼(うきぬ)の池に菱採(つ)むと
わが染(し)めし袖(そで)
濡(ぬ)れにけるかも
柿本人麻呂
鋭い刺(とげ)のある独特の形をした実には、でんぷん質が詰(つ)まっており、ゆでて食すとクリに似た味がします。ヒシが実にたっぷりとでんぷん質の養分を蓄えているのには理由があります。浮葉植物であるヒシは、池の底で発芽し水面に向かってのびていきます。しかし水深が深いからといって途中で止まってしまっては生きていけません。そこで十分な養分を蓄えておき、どんなに深くても一気に水面までのびて葉を広げる必要があるからです。生き抜くための巧みな植物の仕組みです。なお、市内には小型のヒメビシもわずかながら見られます。図を参考に観察してみてはいかがでしょうか。